近所の工事現場や、一戸建ての工事現場。そこに立っている看板には、知らない人のフルネームが、しっかり書いてある!
いろんなところで見かけるたびに、野次馬根性でフンフンと読みこんでいた。でもある日、ハッとした。これ、自分だったらイヤだな。なんでこんな情報が、おおっぴらに公開されているんだろう。
気になって調べたら、あの名前を出すのは、建築基準法で決まった義務。名字だけにできないか市に聞いて、ダメと言われた人までいるらしい!
じゃあ、なんで名前まで出さなきゃいけないの? 出さなかったら、罰はあるの?
工事の看板に名前を出すのは、本当に法律の決まり?
工事現場に建て主などの名前を出すのは、建築基準法の決まり
家を建てる工事などでは、現場の見やすい場所に、建て主(施主)・設計した人・工事をする会社などの名前と、建てる前のチェック(建築確認)を受けたことを出す決まり。看板を出す役目は、工事をする会社。(建築基準法・文京区の案内)
決まりなら、もう仕方ない。ただの習慣じゃなくて、法律の名前まで付いていたなんて、ぼくは全然知らなかった。野次馬気分で読んでいた看板は、法律が立たせていたわけだ。
家の大きさも関係ない。建てる前のチェックを受けて建てる家なら、一戸建てでも同じで、小さい家でも看板は出る。ということは、ぼくが家を建てたら、ぼくの名前も出るのか。
住所はないんだ。看板の決まった形では、人の欄は名前だけで、建て主の住所や電話番号の欄はない。それに、看板を出すのは工事をする会社の役目で、建て主は書かれる側だった。

決まりなのは、よくわかった。でも、理由が気になる。なんで名前まで出すんだろう。モヤモヤは、まだ残ったままだ。
なんで名前まで出すの?だれのための看板?
県や市の案内を読むと、あの看板は、その工事が建てる前のチェックを受けていることを示す表示板らしい。見やすい場所に出すのだから、まわりのためなんだろう。違反を防ぐためで、近所の人が主役。通る人だって見られる。
役所の書類で名前を見られるのは「違反建築物の建築の未然防止」のため
役所でだれでも見られる書類(建築計画概要書)にも、建て主の名前や住所が載っている、と国の資料(2007年ごろ)にある。そのしくみの目的は、まわりに住む人の協力で、違反の建物が建つのを前もって防ぐことなど。(総務省の資料)
まわりの住民が見張る形、ということか。違反を防ぐのはわかるけど、ちょっとこわいし、けっこう強め。それに、なぜフルネームでないとダメなのかを、はっきり説明した国や市の文は、探しても見つからなかった。

目的が違反を防ぐことなら、名字でよくない? 下の名前はいらないし、フルネームは多すぎる。いや、名前自体いらんやろ。違反かどうかに、名前は含まれない。建物は、逃げも隠れもできないんだから。
名前を出したくないときは、断れないの?
同じように、名前を出したくないと思った人は、ほかにもいた。市に問い合わせた人の話が、市の公開している資料に残っていた。
名字だけにできないか市に聞いても、答えは「ダメ」
施主の希望でフルネームを出したくないと、名字だけにできないかを市の建築指導課に問い合わせた人の話。答えは「ダメ」。納得できずに市民の声として出すと、市の答えは、国の法律に基づくもので、市で扱いを決められるものではない、というもの。(高知市が公開している市民の声)
やっぱり断れない。国の法律だから、市でもどうにもならない。かなり厳しい。聞くほど嫌な人がいるということだし、ぼくも聞きたくなる。
東京の文京区の案内にも、「氏名は略さず表示してください」とハッキリ書いてあった。迷う余地なし。かなりの念押しで、一文字も省けない。空欄やイニシャルにした看板もある、という話もネットで見かけるけど、ちゃんとした出典では確かめられなかった。抜け道はほぼなさそうだし、ぼくならあきらめる。
じゃあ、個人情報の法律にはひっかからないのか。個人情報の法律には、ほかの法律で決まっているとき(「法令に基づく場合」)は、本人の同意がなくてもいい、という例外がある。警察の調べに答えるときなどにも使われる例外で、さっきの市の答えにも、この「法令に基づく場合」の文が引かれていた。

そういう例外があるなら、法律の上では出せてしまう。でも、法律と気持ちは別。守るけど、嫌。ぼくもやっぱり嫌だ。
看板を出さなかったら、罰はあるの?
モヤモヤの1つだった、守らないとどうなるのか。法律の罰則のところまで調べてみた。
看板を出さないと、50万円以下の罰金
建築基準法の罰則に、看板の決まりを守らなかった人は、50万円以下の罰金とある。看板を出す役目は工事をする会社なので、罰金の対象も、ふつうは工事をする会社。(建築基準法の罰則)
罰金、あるんだ。50万円は重い。しかも、罰を受けるのは建て主じゃなかった。役目は工事の会社なので、会社の責任が重い。罰を受けるのは、書かれる側じゃなくて、出す側だった。

ただ、いきなり罰金になるわけでもないらしい。島根県が出した建築パトロールの結果には、建築確認済みの表示がない現場の施工者に、表示板を掲げるよう指導した、とあった。山梨県のパトロールでも、看板のない現場が見つかって、すぐ直すよう指示していた。ネットには「罰則はない」と書いた記事もあるけど、法律の原文とはちがっていた。
看板はいつまで出しておくの?
区の案内では、建てる前のチェックに合格したしるし(確認済証)が出てから、県の案内では工事を始めるときから、どちらも完成するまで出しておくものらしい。神戸市は、工事を始めたときのことを、くい打ちや、地面を固めたり掘ったりする工事が始まったとき、と説明していた。
工事中だけか。完成までの決まりなので、完成したら外れる。役目が終わるから、住んでしまえば関係ない。期間限定の名札みたいなものだ。

とはいえ、工事のあいだは、通る人がずっと見る。見られる期間は長いし、写真に撮られて残るかも、と思うとちょっと気になる。気にしすぎかもしれないけど。
防犯の面も調べたけど、看板の名前がきっかけで起きた事件の、まとまった資料までは見つからなかった。ただ、役所の書類などから名前や住所を知った業者の、売り込みの訪問やダイレクトメールなどをめぐって、24の役所だけで苦情や相談が337件あったという国の調べはある(20年近く前の話)。
看板の名前は、工事が終われば外れる。それまでのあいだ、通る人はやっぱり読むんだろう。ぼくみたいに、フンフンと。
